第15話

『第15話』 作:ネタな人@ぷろてす あんど りゅーすさん



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「アリクイって知ってますか?実は今アリクイの研究をしていましてね。アリクイはですねぇ、生態が哺乳類とそっくりにも関わらず、卵生なんですよ。昆虫のように卵を・・・・・」


ふと我に返り重い顔を上げたバルキリー。


椿だ。


「うにゃ・・・はれ・・・なんでしたっけ?ハリスさん?」


「・・・・もういいです。用事があるのはあなたではありませんでしたか?」


「そんなこと言ったってハリスさんが無理矢理アリクイの話に持っていったんじゃないですかっ!」


呆れながら怒る。


「そうでしたかな。はっはっはっ。で、用事とは?」


「んーと、この指輪の鑑定をお願いします。」


白いふさふさした毛をその顎周に蓄えたアリクイマニアは一瞬驚いた。


「んん!?なんですかこれ?それにこのマーク・・・」


「お?もしかして世紀の大発見!?」


「いや・・・これは・・・もしかして・・・」







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目を開いて最初に思ったのは、「頭が痛い」


「うぐ・・・・・・ものすごい頭痛が・・・・・・」


「ぅぅぅ・・・・・・僕の目が回って世界が回って僕が回って・・・・・・」


見上げると、呆れた顔をしたマエルが猫背の格好で立っている。


「おぬしらは普段の鍛錬がなってないのじゃ。この程度の時空の歪み。INTが100程度あれば十分だというのに」


(INTに100も振るパラディンやバルキリーなんていねぇよ!!)


もっともな文句を言いたかったが今の立場からそこまで余裕は無かった。


「おしゃべりはもう終わりにしてちょうだい。静かにしないとここで始末しなきゃなんだけど・・・・・・」


純白の塊を身に纏う女戦士がさらりと言う。


(というか、この女はINT100あるのかよ!)


シティスが足早に歩き出す。


(まだ歩くのかよ!)


万太郎もこの時点で周りを観察するぐらいの余裕が生まれてきた。


大理石の床に古びた金縁の赤絨毯が闇へと伸びている。


柱は円柱であり、その影に隠れるように甲冑や台に乗った壺。


いかにも「古城」という名が相応しい風景。


左右の壁にドアがひとつもないことから渡り廊下だろう。





10分は歩いただろう、ようやく広めの空間に出た。


「ここは・・・ギルドセンター?」


「あら、シティスじゃないですか。随分早かったですね」


突然横からシティスのものではない女声がしたので万太郎は相当驚いた。


「ふふ。まぁね。だけど、極道剣士が死んじゃったわ」


「シティスは他人の力を大きく見すぎですよ?レベル差を考えればダメージエンチャンターの使用は抑えるべきです」


「それはあの男が弱いだけに過ぎないわ」


(おいおい、そんなこといったら俺なんか貧弱ひよこレベルだぞ・・・)


「っとと、このお爺様がマエルさんよ。そして、後ろに居る2匹は愉快な仲間達ね」


「ぬ・・・・」


「ついでかよ!!」


「それで、この人がメッドモイよ。私の上司にあたるわ」


「スルーかよ!そして上司を呼び捨てかよ!」


「よろしくお願いしますね♪」


(どっちが上司かわからんな・・・・・・)


「で。極道剣士君を殺してしまったんなら始末書でも書かないとだめですよ。真面目君がしつこいですよ?」


「そうね。ちょっと兄さんのところまで行って来るわね」


(この悪女の兄貴・・・・アンテクラみたいなんだろうか)


シティスはそういうと、再び歩きだす。


おいていかれないように万太郎達は駆け足ぎみに追いつく。





その先に「兄さん」は居た。


「ただいま、兄さん」


この顔を俺は見たことがあった。


ギルドセンターの役員、アンテクラだ。じゃなかった。ラゲールだ。


実は俺は少し前にギルドを設立した。ただ、設立時のメンバーは全員人数あわせの手伝いだったので、今ではソロギルドでもある。


ということはここはやはりギルドセンターの中で確定だろう。


「極道ボウヤが鍛錬不足で殉職しちゃったんだけど」


「始末書」


そう言って手渡したのは1枚の羊皮紙。


「あとでね」


なんだこの兄妹。ぶっちゃけ怖い。


「すまんが、おぬしはギルドセンター役員のラゲールさんじゃな?」


ふと、さっきからずっと静かだった髭ジジイが口を開いた。


アンテクラもといラゲールは顔をあげると、マエルに気づいた。


「マエルさんですね。ヘガーさまのところまでご案内いたします。」


「話が早くて助かるの」


「ここからは俺が案内する。お前は俺が戻ってくるまでに始末書を書き終わっておけ」


シティスにそう言い残し、ラゲールは真ん中の階段を指示した。


「こちらへどうぞ」





しばらく上ると、変わったものがあった。


どことなく魔方陣の様なオブジェ。真ん中には穴が開いていて水が張ってある。


「マクアペル教団から大陸を守った6人の勇者たちを祭った泉です。時計回りに、セルキス将軍、大賢者ラロシュ・・・」


「ほうほう。こんなのがあるんですねー!」


何このモグタンの食いつき。


ラゲールは歩きながら泉について説明した。


丁度その説明が終わる頃、小さめのドアが見えてきた。


十分大きいのだが、建物自体相当の高さのため小さいと錯覚してしまう。


「この先でヘガーさまはお待ちです」


それだけ言い残すとラゲールは去っていった。


「緊張するな・・・・・・」





中は質素な一室だった。古びた椅子に腰掛けた人物が一人。


ヘガーだった。


「やや!マエルさん!来ましたね!」


(イメージが違う・・・・もっと威厳ある渋いオッサンだと思ってた・・・)


「そして君達は確か・・・・リザード万太郎君と土竜君だったね」


「モグタンでいいですよぅ」


マエルはヘガーを睨み付ける。


「ヘガーよ。単刀直入に聞こう。ニーダとかいう者はおぬしが仕向けた刺客なのか?」


「やや!とんでもない!彼女は勝手に動いたまでですよ」


即答。


ヘガーは事件の内容を細かに語り始める。




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ヘガーは事件の内容を細かに語り始める。


 ・マクアペル教団の狂信者がクロノス大陸を完全に混沌に染めようと活動を激しくしていること

 ・そのためには、魔物を沢山生み出さねばならない

 ・ここでマエルの力である「分身魔法」が必要となる

 ・そしてその魔物を送り込むためのゲートを作る「移動魔法」が欠かせない

 ・そこで教団は大陸政府の重役を人質に取り、マエルの亡骸と引き換えに取引を要求した

 ・大陸政府は、ギルドセンターの局長でもありクロノス城を実質収めているヘガーに全てを任せる

 ・しかしヘガーの派閥の中で意見が分立

 ・マエルの亡骸を引き渡して少しでも多くの人を助けようとする者達。
  強硬派と呼ばれ、これがニーダ達にあたる。魔物は随時撃退すればよいという考え方

 ・魔物が増え対処しきれなくなる可能性を危惧し、強くなる前に叩こうという考える者達。
  穏健派と呼ばれ、これがヘガー派閥の中ではシティスとラゲールとメッドモイたち

 ・ヘガーは優柔不断でどちらも選べないらしい


ヘガーが早口で聞き取りづらい声で言うものだから細かいことは覚えてないが大まかにまとめるとこんな感じである。


「・・・・・・」


「まさか重役達が人質にとられているとはな・・・・・・」


マエルは神妙な面持ちで言う。


「それだけじゃないんよ。ミドスの爺様も人質にされてるんだ」


「ミドスだって?」


万太郎はその名前に聞き覚えがあった。


それは確か、町内会の顔役が言った名前・・・・・・



 『あぁ、ミドスのじい様ぁ無類の酒好きでねぇ、昼間っから飲んでぐでんぐでんになることがよくあるんですよ』



(・・・・・・・え?ただの酒好き?)


「ミドスまでか・・・・・・あやつが教団にやられるとも思えぬが・・・・」


「そのミドスってひと、誰です?」


モグタンが何気なく聞く。


「あぁ、このクロノス城の元王だよ。といっても、今はただの酒好きジジイだけどね」


「おいおい、元王だって?いくらなんでもそりゃやばいんじゃないのか?」


元王とは言え、以前はクロノス城を治めていた人物だ。住人に知れたら、パニックになるだろう。


「それでもあやつの実力は衰えてないはずじゃ。しばらくは大丈夫だと思うが」



「・・・・・・・・」

長い沈黙。



静寂を破ったのはマエル。


「ワシの身体はもう限界がきておる。ワシ一人の命で助かるなら、それでも致し方ない。覚悟はできておる」


「では、君たち2人はどうする?強硬派か穏健派か」


ヘガーが問う。


(そんなもん決まっている。人によって考え方は違うさ。でも、俺の中では確実にこっちだね)


「俺は・・・誰一人として殺させやしませんよ。マエルさんが居なくなったらサボテンのトゲに泣かされながらサンツスミコにいく羽目になりますからね」


「僕もリザード万太郎さんと同じ考えですっ!」


モグタンも味方についた。


「若いとはいいな。自分の考えをはっきりと持てるからな」


「フォッフォ、おぬしらと逢えて本当に良かったわい」


マエルはそういいながら、鉄アレイのような砂時計を指先でもてあそぶ。


「じゃあマエルさん、教団の狂信者どもを潰しにいきましょう!」


「ははは、そう焦るな」


ヘガーが制止する。


「私はまず、ニーダたちに万太郎君の力になるように説得しておく。私の決定ともなれば従うだろうし」


(うえ!あの性悪女も味方ですか!)


そんなことは言えないので心にしまっておく。


「まずは装備を整えたらどうだい?リザード万太郎君も土竜君も」


「モグタン、でいいですってば~」


「おっとこれは失敬。万太郎君、君は見たところ武器もないようだが・・・」


「あ・・・・・」


そういえば思い出した。俺の自慢の+5セルキスは極悪剣士によって折られたんだった。


その時の戦いで防具もヒビだらけである。


「ふむ、しかし君、レベルの割にはヴィラ=Jなぞ着てたんだな。意外だよ」


笑いながらヘガーは言う。


「レベルの割りにって・・・・俺はLv60でディバぐらいしか装備できない・・・・ってあれ?」


自分のレベルがLv80になっている。


「何時の間に・・・・」


不思議に思っていた俺に、マエルが言った。


「先刻の極悪剣士とかいうパラディンとの戦いで経験値が入ったんだろうな。レベルの差があった。十分であろう」


「ふむ。彼は確かLv100丁度だったしな。では、私の栄光時代の装備を万太郎君にあげよう」


そういって、ヘガーは俺に茶色の布に覆われた群青色の鎧を渡した。


「これは・・・・グラアーマー!!?」


「私は派手な色は大の苦手でね。セイクリッドやブードゥーは付けたくなくてずっとこれを着てたよ」


笑いながら言うと、いつの間にかヘガーは太めの長剣を持っていた。


なんと、白く輝く光を纏っている。


そう。憧れていた「成長武器」ルゥである。ヘガーはそのルゥを差し出してきた。


「これは・・・・いいんですか?」


「私はもう使わないしね。もう戦える身体ではないんだ。マエルさんみたく強くはないんだよ」


「む・・・・」


「ではありがたく頂きます!」


「成長武器は所有者の脳に直接語りかける能力を持っている。少々口うるさいけど我慢してね」


「いやとんでもないです!憧れの成長武器ですし!」


俺はルゥを握り締める。


《よう!お前がリザード万太郎か!ふむ・・・成長武器をちょっとさわってみたぐらいの腕前だな。くくく、油断するなよ。その気になればいつでも私がお前の身体をのっとれるのだよ》


(反抗タイプかよ・・・ご主人様っていわれたかった!!!!)


《ご主人様~~ ・・・・ なんて言って欲しいのか?》


(ギクッ!!!!!!!!!!)


「モグタン君には、これをあげよう。ゲルセット。シティスのお古さ。武器はホウ=イの弓」


「ありがと~~です~~」


(モグタンってもともとレベルいくつだったんだよ・・・)





俺たちは防具をつけた。ディバで満足していた俺にとって、トライアンフ防具は凄かった。


つけているだけで力がみなぎってくる。


「さて、装備も万端になったね。これから何をするかだけどね、」


俺たちは緊張した。


「まず、私はニーダとプラネタ河伯君を引き戻すよ。そのあとこの2人には君達の支援に入ってもらう。その間の君達の仕事、万太郎君とモグタン君には発掘作業をやってもらいたい」


へ?はっくつさぎょー?


「すいませんヘガーさん、何のための発掘作業でしょうか?」


「古い坑道からマタリエルの備品を見つけ出すのさ。あれらが放つ邪気はマクアペル教団に察知されやすい。やつらは備品を探しているらしい。つまり、人質の方を手薄にしてまでその備品を探したいんだ。まぁもっとも、その備品も渡してはならないが」


「ふむふむ」


「備品にはマタリエルのペンダント リング ネックレス が存在する。倍の数そろえると引き寄せる効果も倍になる。といっても、ペンダントやリングは複数あるわけじゃなくて1個ずつだけどね」


「要は、誰かが教団を引き寄せている間に重役を助けるんじゃな」


マエルが補足確認する。


「それは、高レベルの人が付けてるマタリエルアクセサリーとは違うんですか?」


「あぁ、全然違う代物だ。マタリエルアクセサリーはあまりの強さゆえに、最凶の象徴マタリエルが象られているだけだ。こっちのは、マタリエル自身が作り出した怨念の塊だ。」


「それはわかったんですけどぉ、どこにあるかわかってるんですかぁ?」


モグタンがなんとも気の抜けた声で聞く。


「全部どこにあるかはわかっているよ。まずリング、あぁ、指輪のことね。ピュリカ隧道に埋まっているらしい」



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ギルドセンターから出てすぐ。


そこにハリスと椿は居た。


「この指輪は・・・・もしかして・・・・」


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